
半導体は極めて身近な存在になり、手元で買い物、娯楽、社会状況などの情報が得られる様子を普通のことと思うようになりました。このようになるまでの半導体の動向とミニマルファブについて、私の視点から述べてみます。
半導体を電子回路として動作させるためには、無機物、有機物、高分子など様々な物質・材料を組み合わせて使います。その基本となる半導体シリコン結晶が作られ始めた頃、その直径は鉛筆程度であったと思いますが、2000年を超える頃には直径300mmにまで太くなりました。それに並行して、電子回路の設計がミクロンからナノメータにまで細かくなりました。
これが、大口径と微細化の動向です。これを進めた動力因は経済性であり、高みを目指す科学技術的挑戦心ではありません。
経済性を考えるために、ウエハに電子回路を作る工程において、ある同じ加工操作はウエハ直径に依らず同じ時間で済むことを仮定してみます。例えば、化学反応で薄膜を形成する時間は、原料ガス濃度と時間や基板温度などに依存し、原理的にはウエハ直径に依存しません。すると、ある能力の電子回路を縮小して作れば、同じ面積のウエハに同じ能力の素子を同じ時間に沢山作れるようになります。もしもウエハの面積を大きくすれば、同じ時間にさらに沢山作れるようになります。このように、大口径と微細化によって生産量が増え、経済性は高くなります。
ところが、これを工程全体に亘って具体的に考えて行きますと、この仮定は常に正しいのかという疑問が湧きます。一般に、加工操作には、その主となる操作に付随するプロセス操作を伴います。成膜を例にすると、膜形成操作の前後に昇降温、濃度・温度安定化と雰囲気置換などがあります。これらはウエハが大きくなると困難さが増し、時間が延びがちです。一方で、ウエハが小さくなるほど短時間で済むというわけでもありません。取り扱い易く、短時間で多様な製品を作り易い直径があると考えるのは、自然なことでしょう。
このような視点のもと、半導体製品の種類と生産数が多様であることに対応すべく、多品種少量生産を少額投資で実現することを目指してミニマルファブ構想が提案され、ハーフインチウエハのプロセスを実現するために幅広い研究開発が続けられてきました。今後、益々沢山の方々に加わって戴き、残されている開発課題を解決し、技術全体を充実・発展させ、応用分野を拡大して産業として展開して行くことが必要です。
私たち一般社団法人『ミニマルファブ推進機構』は、産業技術総合研究所の研究成果を基に、ミニマルファブの推進母体となってきたファブシステム研究会および会員の皆様と共に、強固な推進母体としてミニマルファブの普及と発展に取り組んで参ります。今後共、ミニマルファブ発展のため、関係各位のご支援、ご鞭撻の程宜しくお願い申し上げます。
【略歴】
信越化学工業㈱で19年間、半導体結晶生産に関わる開発に従事、
その後、22年間横浜国立大学において半導体材料生産プロセスの研究を実施、2022年に退官、
現在、横浜国立大学名誉教授。
2010年以降、ファブシステム研究会の企画委員として、ミニマルファブの開発に助言とサポートを実施。